著者名:兼子みほ
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発売日:2022/1/14
販売ページ:Amazon
書籍概要
台北市内、二二八和平公園の一角にひっそりと佇む台北二二八紀念館。ここに、日本語を流暢にあやつり、人一倍熱い口調でガイドをする一人の老人がいた。2009年、蕭錦文さんと「私」の出会いはここから始まる。
蕭さんは、日本統治時代から激動の戦中・戦後をかけ抜けた時代の生き証人として、長年来訪者を案内してきた名物ガイドの一人だ。台湾には、蕭さんのように統治時代に日本語教育を受け、帝国時代の薫陶を受けた、いわゆる“日本語世代(日本語族)”がいる。今となっては皆高齢者となってしまったが、“日本人以上に日本人らしい”彼らから紡ぎ出される言葉の数々は実に重く、日本人への示唆に富んでいる。
「日本人には親愛の情しかない。ただ、日本政府から『ご苦労さんでした』のひと言が欲しいだけなんです」──。
普段は朗らかな蕭さんも、ガイドをしていると時に熱を帯び、熱い思いが口をついて出てくることがある。彼の人生がいかに過酷であったかは、現代の日本に生きる私たちにはちょっと想像しにくいかもしれない。差別を乗り越え、日本のために自ら志願兵となりインパール作戦に参加、飢えと病気で死線をさまようなか、敗戦を迎えた日。実に33万人が動員され、生還したのはほんの数万人だったと言われている。九死に一生を得てやっとの思いで復員するも、故郷の地は敵国である中華民国に接収されていた。そして不穏な空気の中、新聞社の記者となった蕭さんは、図らずも二・二八事件の目撃者となってしまう。これをきっかけに投獄され、今度は処刑手前で命拾いをするという、二度目の九死に一生体験。しかし、命拾いした蕭さんには、白色テロである悲劇が待っていた──。
いま、台湾で穏やかに暮らしている蕭さんからは想像できないほど過酷な時代を歩んできた、彼の“台湾人生”とはいかなるものであったのか。そして、今も「日本を愛しています」と語るその想いとは。彼の半生は、時代に翻弄され、東アジアの潮流に揉まれながら、現在の台湾という形が産声を上げるに至る激動の時代そのものでもあった。
本書は、台湾近現代史の生き証人であり、“最後の日本語世代”ともいえる蕭錦文氏と「私」の出会いから綴る、一人の半生を通した日台の近現代ノンフィクションである。
【目次】
第一章 豊饒の島
第二章 苗栗での日々、そして出征
第三章 退院からの卒寿祝い
第四章 遥かなる南方
第五章 敵国の民となって
第六章 日本人に伝えたい想い
第七章 民主の開花を待ちわびて
おわりに
著者紹介
兼子 みほ (かねこ みほ)
編集プロダクション、出版社勤務を経て、フリーの編集者・ライターに。これまで実用書やビジネス書、広告制作などさまざまな媒体を手掛ける。蕭錦文氏とは2009年に台北二二八紀念館を訪れた際に出会い、その我が身を削ってでも伝えようとする姿に突き動かされ、いつしか本にしたいと考えるように。「誰かが記さなければ時代の波にかき消されそうな人々(モノ、コト)」に強く惹きつけられる傾向があり、台湾の日本語世代に対する想いもその延長線上にある。