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企業出版とは
企業出版とは、企業や団体が単一または複数の目的を持って書籍を制作・発売することを言います。
目的の具体例として多いものを挙げると、「企業や製品のブランディング」「新市場の啓蒙」「社員への理念浸透やモチベーションアップ」です。
一般的に出版は、書籍を販売して利益を得ることが目的になりますが、企業出版の場合は前述の目的・効果を狙っている点が大きな特徴です。
企業出版の効果
前述の目的を叶える効果が企業出版に期待できます。ここでは以下4点をピックアップしご紹介します。
- マーケティング、ブランディングの効果(売り上げ増)
- 新しい効果を持つソリューションの認知
- 人材採用の強化
- 社内人材の育成、エンゲージメントの強化
マーケティング、ブランディングの効果(売り上げ増)
企業出版によって企業や製品をストーリーで語り、ブランドへの愛着や好感度を高めるケースです。
チラシやウェブサイトと比較し、書籍は圧倒的な情報量を届けられる媒体であるため、期待する順序、ストーリーで情報を届けることが可能です。結果として、ブランディング効果を期待でき、最終的には売り上げを高めることにつながります。
出版によって認知獲得も期待できます。そのため、企業名や製品名だけでなく、代表者の知名度アップ、ブランディングに企業出版を活用するケースも少なくありません。
新しい効果を持つソリューションの認知
新しい技術を用いたサービス、新しい発想で生み出されたソリューションは、情報感度の高いアーリーアダプターにのみ受け入れられ、その後、衰退していくケースがあります。
これはサービスの良し悪しではなく、エンドユーザーがそのものを知らないことが問題の一つです。
「こういった課題は解決できるようになりました。」や「こういうニーズに新しい選択肢が増えました。」という市場そのものを作っていく活動が必要です。
特に新市場のリーダーは、出版のみでなく、対メディアのPR活動を通じて盛り上げていく必要があり、その1パーツとして企業出版が利用されます。
人材採用の強化
人材採用に効果を発揮することも可能です。
たとえば、新卒採用にしてもキャリア採用にしても、自社の考え方や目指す先についてを書籍にすることで、本気度の高い層には書籍を通じて、より深く会社のことを知ってもらうことができるようになります。当然ながらミスマッチを減らす効果も期待できるでしょう。ほかにも、業界内のポジションや働き方などにユニークな点があれば、広くリーチする媒体にもなります。
社内人材の育成、エンゲージメントの強化
社内人材の育成観点では、創業ストーリーやMVVの浸透などに活用されるケースが多いです。短い言葉で表現されたミッションやバリューを生まれた背景から十分に説明することで、社員への理念浸透や会社への愛着を深めることができます。
社員のエンゲージメントを強化できれば、離職率の低下につながるでしょう。
企業出版の費用相場
企業出版の費用はいくつかの要素により変化し、相場は200万~1,000万円程度と幅広いです。
ビジネス書ジャンルで有名な会社の場合、ブランドがある分、費用は高いです。ビジネス書の出版で実績のある出版社から出すことで、注目されやすく、書店での取り扱いも期待できるでしょう。費用は高額になりますが、目的によっては十分にペイできるでしょう。
費用のうち、主要な項目は次の通りです。
- 執筆、編集費用
- 印刷製本費用
- 営業費用
- 広告費用
デザイン費用や流通経費も当然かかりますが、ここでは差分の大きな4項目に絞ってそれぞれを説明します。
執筆、編集費用
社長や社内人材が執筆しない場合、執筆を出版社に委託することになり、費用がかかります。執筆の委託費用は50万~300万円程度です。ライターによる差分もありますが、多くは出版社の「格」による違いが大きいです。
著名な編集者やライターに依頼することは非常に難しく、繋がりのある方であっても、タイミングの要素が大きいでしょう。
費用を抑えたい場合、社内で原稿を作り上げる努力が必要です。
印刷製本費用
社内人材の育成を目的にする場合を除き、一般的には数千部以上の初版刷り部数を選択されるケースが多いです。
印刷会社による品質の差はほぼないですが、出版社により印刷製本費は大きく変わります。
3000部の場合で、100万円をきる価格帯の出版社から300万程度の価格帯まで幅広いです。
事業の種類により高級感を重視する場合には、上製本(ハードカバーの書籍)を選択することがあるかと思います。この場合、3000部で数十万円程度、費用が上乗せになります。
営業費用
書店数の減少もあり、数千部を配本することが難しくなってきています。十分な出版の効果を得るためにも、書店への営業活動は重要です。
そこで、書店へのFAX配信や電話・訪問しての新刊案内に力を入れる必要があります。
中小中堅出版社の場合、とくに営業が重要で、配本希望部数に応じた営業費用がかかります。各社数十万程度の費用です。
広告費用
説明するまでもないですが、広告費用はピンキリです。費用の高い新聞広告や交通広告を多く用いると300~500万円以上かかるケースもあります。
媒体に支払う費用が中心のため、各社差は小さいですが、取り扱い媒体の幅に差分があります。取り組みたいチャネル、宣伝方法がある場合には、事前に取り扱いを確認すると良いでしょう。
企業出版の合計費用例
ここまでの説明では、どの費用項目も幅があり、具体的な合計費用額がイメージしづらかったかと思います。そこで具体事例をベースに金額をご紹介します。
ある企業のサービスの場合、組版や表紙デザインを依頼し、印刷製本は1000部、一般書店へ配本します。書店への営業代行、書店ではPOP掲示や面陳列、ワゴン陳列を実施。AmazonやYahoo!検索、Yahoo!サイト内への広告掲載を代行してもらい、プロモーションを強化します。
合計費用は105万円+消費税です。(内訳は下記です。)
- 制作・流通費用:1000部、66万円
- 図版作成:5点、1.5万円
- POP作成、広告用バナー作成:4点、2.5万円
- Amazon広告:10万円
- Yahoo!広告:5万円
- 書店営業:20万円
商業出版、自費出版との違い
企業出版は商業出版や自費出版とどの点で違いがあるのかを以下にまとめました。
企業出版 | 商業出版 | 自費出版 | |
企画者 | 企業と出版社 | 出版社 | 著者 |
目的 | ブランディング、人材育成など | 本を売ること | 自己表現、啓蒙など |
プロモーション | 企業主体 | 出版社主体 | 著者主体 |
コスト | 企業が負担する | 出版社が負担する | 著者が負担する |
企業出版は企業と出版社によって企画されるのが特徴です。商業出版は出版社が企画を行い、自費出版は著者が企画します。
企業出版は商業出版と異なり、企業の目的や企画を中心に出版が進みます。売れるかを重視する必要がないため、煽り要素のあるタイトルになることも、読者受けの良いテーマにずれていくこともありません。
企業出版のコストは企業が負担します。商業出版の場合は出版社がコストを負担し、自費出版は著者が負担する点が大きな違いです。
また、企業出版と商業出版は、一般読者にとって違いがありません。企業出版を専門に扱う出版社を除き、読者からは企業出版かを判別する方法がないためです。
そのため、企業出版だからといって、ブランディング効果が薄まる可能性は低いでしょう。
企業出版のメリット・デメリット
メリット・デメリットの両面を把握した上で、出版という方法があっているか確認することも大切です。
企業出版のメリット
企業出版のメリットは以下の通りです。
- 多くの情報を提供できる
- お金を払って本を買うほど関心が強い層にリーチできる
- 信頼感やブランド感を熟成できる
- 書店やネット書店など企業広告を出せないメディアを活用できる
- 経営者の言葉をわかりやすく整理して伝えられる
- 会社の理念に共感できる人材を獲得しやすくなる
- 継続的な効果を期待できる
- パブリシティの獲得など間接効果を狙える
何度か触れていますが、書籍という媒体を用いるため、多くの情報を提供できる点や書店で接点を取れる点が特徴です。
書籍の情報や著者を中心に選定するケースは非常に多く、パブリシティや講師依頼の獲得も出版の強みと言えるでしょう。
書店に書籍が並ぶ期間は売れ行き次第ですが、さほど長くはありません。ただし、Web広告などの瞬発性があるチャネルと比較した場合、効果の持続性に優れていると言えます。ネット書店で販売が続くだけでなく、中古書籍としての流通や、読者による書評、要約記事など多方面からの効果が含まれます。
企業出版のデメリット
企業出版のデメリットは以下の通りです。
- 費用負担が発生する
- 執筆や編集などの負担が生じる
- 企業として伝えたいことと読者の関心のある内容とのバランスを取るのが難しい
お金と手間は分かりやすいデメリットです。
伝えたいメッセージと届けやすさのバランスは非常に難しく、企業の一方的な宣伝になれば売れない書籍になり、そもそも宣伝効果が発揮されません。
読者が求める情報を中心にすると、売りやすくなりリーチは伸びますが、最も伝えたいメッセージが薄まり、本来のゴールから遠ざかる場合もあります。
企業として重視したい内容と読者の関心が強い内容とのバランスを取るのが難しい点は、企業出版のデメリットといえるでしょう。
企業出版の印税相場
企業出版の印税の相場は自費出版の場合と同程度です。企業に対して書籍売上の3~5割ほどの印税が入ると考えましょう。
(1000円の書籍が1000部売れた例で言えば、売上が100万円で、企業に50万円程度が振り込みされます。)
企業出版に取り組む大半の企業は、書籍の売り上げを目的としないため、売上金(印税)を広告等に再投資されるケースが非常に多く、次いで増刷費用に回すケースも多いです。
企業出版の流れ
企業出版の主な流れを以下にまとめました。
- 出版社との契約
- 企業出版の目的やテーマなどの整理
- 書名や内容の企画
- 執筆
- 編集・校正
- 組版・デザインの作成
- プロモーション計画の作成
- 印刷製本
- 書店営業、プロモーション準備・実施
- 書店配本
- 追加プロモーションの実施
企業出版をするためには、まず出版社と契約をします。その後は、企業出版の目的やゴールを設定し、書籍で伝えたいことやテーマの整理をします。さらに、仮の書名を決めて、内容の企画を進めます。
執筆については企業側で対応する場合もあれば、ゴーストライターに委託するケースも少なくありません。インタビューに答えて、内容をまとめてもらうケースもあります。
原稿が完成した後は編集と校正の作業が行われます。次に組版やデザインの作成が実施されます。並行してプロモーション計画の作成も進めます。
最終的に問題がなければ印刷製本が行われて、書籍の完成です。その後は、書店への営業やプロモーションを実施し、実際に書店へ配本されます。売れ行きによっては追加でプロモーションを実施するケースもあるでしょう。
以上の流れで企業出版を進めていきます。出版社に依頼することで、企業出版のすべてのプロセスについてサポートを受けられるでしょう。ただし、出版社や契約内容によって、どこまでサポートを受けられるのかは異なります。事前にしっかりと打ち合わせを行い、出版社が担当してくれる業務を明確にしましょう。