出版書籍の売上を伸ばすマーケティング施策

今回は出版する書籍をより多くの読者に届けるためのマーケティングについてを取り上げます。

年に8万タイトル

現在、年に8万点以上の新刊書籍が世の中に出されていると言われています。それを全部「本という商品そのもの」の力だけで売るとすれば、それがどれだけ大変なことか・・・は、想像するに難くありません。

そもそも本という商品は、どのような特性があるのでしょう?本というものは他のいろいろな商品(食品や雑貨や衣服や、その他消費財)とどこが違うのでしょうか?本という商品の特性を少し考えてみましょう。

本の商品特性

商品価値の変動差が大きい

「本」という商品の価値の評価が、人によって大きく異なります。ある人にとってその本は価値が高くても、別の人には全く価値を持たないという傾向が強いです。

独立した個別商品

出版物としての本はそれぞれが独立していて、相互に代替することが難しい個別の商品という特性があります。

需要の有無

商品価値の変動にも通じますが、出版物というものは、予めある需要を埋めるような商品ではありません。例えば暖房機器は「寒さを防ぐ」というニーズを満たすためにありますし、スポーツドリンクという飲料は、「汗を出したあとの適切な水分(と必要成分)を補給する」という明確な商品需要がありますが、本にはそのような需要がほとんどありません。どちらかというと、新しい出版物は、それ自体の力で、それまで存在していなかった需要そのものを喚起するという役割も担っています。

反復購買や大量購買が期待できない

この商品(本)がよかったからという理由で、同じ本を何冊も手に入れようとする人はまずいません。同じように、同じ本を大量に何冊も保有しようとする動機付けもほとんどありません。

このように本には他の商品とは明らかに違う特性があるために非常に売り難い商品であることは事実です。

本の競争相手

とはいえ、そのような本の特性は、何も今になって急に生まれてきたものではありません。古代の昔から、「本」とはそのようなものーーでした。ですから、「本が売れなくなった」という現象を、これらの本という商品の特性だけで語ることはできません。他にもきっと「売れなくなった」理由があるはずです。それは何でしょうか?

どの商品でも共通することですが、「何かを売る」ということは、「価値を売る」ということと同義です。本が売れなくなったということは、本が持つ価値(競争力)が何かと比べて劣ってきたという見方もできるでしょう。

「本が売れない」のは、その相対的な価値がおそらく落ちているのです。ではその相対的価値とは何か?

それは「時間の使用価値」と言っていいと思います。

もっとも典型的な例をあげます。あなたが電車の中にいると想像してください。最近の電車の中の風景はどのようなものでしょうか?おそらく「携帯」を持ってメールやアプリを利用している人を直ぐに思い浮かべることでしょう。ひと昔前までは、電車の中の過ごし方と言えば、新聞を拡げて読むか、読書をするというのが定番でした。ところが今やそのような人は珍しくなってきています。つまり時間の使用価値という側面で、本は携帯にとって替わられたと言えます。

携帯電話に限らず、世の中に多様なエンタテイメントが出現し、日々の人々の“時間”を使ってもらう、“あの手この手”の仕掛けが多様化、増大化した結果、「本を読む(買う)」という行為が、その中の勝負で劣勢に立たされているということなのだろうと思います。

人々の時間の使用価値が変わってきていると言えるでしょう。

本の流通世界

現在の「本」は、どのような形で流通しているのでしょうか?
従来の「本を売る行為」には、3つの立場の参加者がいます。出版社、取次店、書店です。ただしこれら3者が織りなすビジネスモデルは、ずっと「本を書店に並べるところまで」という、B2B(企業間取引)の形をとってきました。それをサポートしてくれるメディアへの働きかけには注力するものの、それ以外にはエネルギーをかけていなかったと言えます。
別の言い方をすれば、本を購入する最終ターゲットである「読者」を見ずに、流通業者同士を見て商売をしていたと言えます。

読者に訴える

どの業界も共通する真実があります。それは「最終使用者のニーズに応えることが価値を生む」というものです。昨今流行している「B2B2C」の考え方です。
その原理から言えば「本」という世界での最終使用者は「読者」です。改めて今、「本」という世界のマーケティングを考える時、「読者のニーズ」にいかにダイレクトに訴えるか?「読者のニーズ」にいかに強く応えるか?ということを、もっと真摯に考える必要があるのでしょう。

ウェブの活用

読者一人ひとりとどのようにつながっていくか?中間業者のニーズではなく、読者という個人のニーズにどうやったら直接訴えることができるか?を考えるとき、それをカバーする力はやはり「ウェブ」という世界にあるのだと思います。

ウェブの世界は、個々のニーズを浮き彫りにさせてくれます。今までのような“一週間単位の売上ランキング”等という、粗いトレンド発信では到底及ぶことが出来ないような詳細なニーズを掴むことができます。

それは「バナーのクリック率」で表すこともできますし、もっと言えば「書店の店員」の代わりとして「パワーブロガー」や「インフルエンサー」は誰か?ということになります。どの経路でどんな人がこの本に興味を持って辿りついたのか?が解る時代になっています。今後「本をいか売るか」という視点で考える時、「誰をインフルエンサーに仕掛けていくか?」という視点などはもっと重要視されるべきでしょう。

もっと本を売るための方策

あなたが、もし本の著者であったとして、あなた自身の本をいかに売っていくか?を順番に、出来ることから考えてみましょう。そこに本を売るためのヒントが隠されているかもしれません。

1)家族、親戚縁者、知人に買ってもらう

これは、「モノを買ってもらう」一丁目一番地とも言えます。

2)SNSで紹介、拡散

今や個人がSNSというツールを使って広告・発信ができる時代です。あなたの本をあなたの発信力で紹介することは十分に可能です。

3)出版セミナーを開く

「出版セミナー・出版パーティー」というイベントを持つようにしましょう。規模の大小は問いません。テーマにあったセミナーを企画してみましょう。一緒にあなたの出版を喜んでくれる人と、一緒に「いい時間」を共有しましょう。「実は本を出したんだけど、出版記念パーティーを手伝ってもらえない?」と頼んでみるだけで充分です。

4)手紙を出す

「手紙」はアナログの世界・・・で効果はクエッションマーク・・・と思うのは間違いです。「手紙」は本人の意思や気持ちを伝えるツールとしては今でも十分に効力を持っています。本と一緒に手紙を添えて、多くの人に本の存在をアピールすることは想像以上にパワーを持ちます。

5)販促物を配る

チラシ、名刺、ステッカーがこの世の中から無くならないのは、それだけ効力があるからです。会う人にあなたが著者であることを知らしめるためには、名刺にあなたの本の表紙の画像を入れるとか、会う人に記念のステッカーを手渡すとか、「え?そうなの?」と思える工夫を日頃から仕掛けていきましょう

6)ウェブサイトを持つ

個人のウェブサイトはやはり強力です。名刺にURLを記載するのは当然として、SNSなどを通じてあなたのウェブサイトの存在を充分に告知して、辿りついた人に知ってもらえるよう「本」の宣伝コーナーを設けましょう。

上記はあなたが個人として「本」を売るために出来る工夫の一つです。

7)配本数を増やす、平積み陳列を増やす

書店へ相談、依頼し、より多くの書籍を配本させていただき、面や平積みでの展開をご相談することも一つです。出版社から書店へ相談し進めることが一般的です。

8)ランキング上位を狙う

大手書店やECプラットフォーム上で販売数のランキング表示を見たことがあるでしょう。知人やファンの購入経路を集中させることや指定経路からの購入に特典をつける等し、ランクインを目指します。

9)Amazon広告

Amazon等のプラットフォーム上で広告出稿が可能なものがあります。書籍のジャンル等により向き不向きがありますが、一つの選択肢です。

10)POP等の作成

書店へ配布するPOP等の作成を検討しましょう。一定数の注文配本が取れた際には、あわせて(または別送で)送付し、設置をご相談すると良いでしょう。

こうやって見てみると、「本を売る」という行為の基本が見えてきます。それは突飛な販促ツールを使用することでもなく、最新の広告手法を使うものでもなく、極々普通の方法。つまり「本を出版したことを知らせる」行為そのもの。
本のマーケティングの基本はつまるところそこに集約されるのでしょう。

セミナーと本の相性

さて、途中で挙げたセミナーについてです。
「本を販売する」強力な策「セミナー」を開催することです。
あなたの本の内容の一部を宣伝に用いるという方法です。つまり「本」という商品を「情報商品」として位置づけます。本に掲載されている内容は価値が変動するものであり、読者一人ひとりにとって「どのような情報が載っているのか?」が最も興味があり、重要なポイントです。

それを「セミナー」という形で「チラ見」するというマーケティング手法です。
セミナーの内容に興味を持ち、より深くより詳細にその知識を得たいと感じた読者がセミナーで「本を購入する」という流れをつくります。これは書店の平置きよりも効果があるでしょう。

ブランディング目的での出版

誰もがセミナーを開催できるわけではありませんが、もしあなたが「士業」と言われるような「情報提供」を業としているのなら、是非とも「出版」という形を取ることをおススメします。

いくらウェブサイトが有効で、いくらSNSの拡散力が有効でも、「士業」という立ち位置におられる方は、集客や営業に一種のジレンマを感じています。それは「自分を売り込む」という「営業活動」が、やもすると「自分の安売り」や「自分の押し売り」につながり、自身のブランドイメージを損なう恐れがあるからです。

その時に有効なのが「出版」によるブランディングです。自身のプロデュースツールとしての「書籍」は、いまでも大変強い力を持っています。

私たちは、「本を出した人」=「認められたエライ人」というイメージをまだまだ強く持っているからです。多くの士業の方が「本の出版」を契機に集客に成功しています。これは「本の出版⇒著者の紹介⇒セミナーの実施⇒本の紹介⇒本の販売」という流れが非常にスムーズに流れるからでしょう。本という存在が、未だに人々に多くの影響を与えている良い例だと言えます。

まとめ

「売れる本」という言葉があります。「ロングセラー」も売れる本ですし、「ベストセラー」も売れる本です。ただこの両者には少し違いがあります。ずっと長い期間、ある一定の人々に売れ続けるのが「ロングセラー」で、これは時代を超える力があります。そして「ベストセラー」は、その瞬間に最も多くの人々に支持を得る本。どちらも「売れる本」ですが、その性質は少し違います。あなたの本はどちらに向いた本であるのか?時代を超えて読み続けて欲しいのか?今あなたの考えを、今あなたと共に生きる人たちに一人でも多く読んで欲しいのか?

あなたの考え方によって、あなたの本のマーケティングは変わっていくでしょう。ただ、間違いなく言えるのは、「著者は一人でも多くの人に自分の作品を読んでもらいたい」ということです。その情熱が本のマーケティングを動かすもっとも大きな力だと言うことは今も昔も変わらないのでしょう。