今回のテーマは「出版社の倒産」です。
休刊や廃刊になっている雑誌があっても出版社は残っていたり、また出版社が倒産していても雑誌ブランドは他社にそのままの形で引き継がれていたりし、一般読者から見ると出版社の倒産は分かりづらいものです。
目次
倒産件数と傾向
数字を見ていきましょう。
2015年の出版社倒産は前年に比べて3件増加し35件でした。
出版物の販売額は1兆5,220億円で前年比5.3%減(出版科学研究所)とのことでした。この販売額は11年連続で前年を下回る結果です。
出版社の倒産件数も、2年連続で増加し出版業界の厳しさが数字にも表れています。
東京商工リサーチのデータでは、2015年の全産業の倒産が8812件、そのうち「販売不振」を原因とした倒産は67.6%にあたる5959件。
2015年の出版業の倒産のうち「販売不振」を原因とした倒産は68.4%と全産業の平均の上となりました。
では販売不振=出版業の不況=出版社の倒産ということなのでしょうか?
もちろんそれは一理あることは分かった上で他の考え方をしてみたいと思います。
倒産の原因は?
書籍の販売数低下は出版社にとって痛手ではありますが、倒産の原因としてはそれだけではなさそうです。
これは出版社の資金繰りの仕組みをまず知る必要があると思います。
書籍は企画から印刷した書籍を書店へ流通させる間に費用が掛かります。人件費であったり、印刷費用、広告宣伝費等がその例です。
書店へ流通された書籍は、読者の方々が購入すると書店に売上が入り、取次へ入り、出版社へ入るというルートを辿ります。
この流通させた書籍の売上が出版社に入る時期が、多くの出版社で半年から8ヶ月程度先になります。
つまり、ヒット作が出たとしても、流通前に掛かった費用への跳ね返りは、半年以上先となります。
書籍には一般的な費用で制作できる企画と、高額な費用のかかる企画があり、高額なものであれば尚更、この「時差」によるキャッシュフローの悪化は影響が大きいです。
ここまでの話は仮に売れたとしてですから、出荷した書店から大量に売れ残り書籍が返品(返本)された場合、どうなるか・・・。
上記までの入金フローも新タイトルを定期的に出す前提でのお話です。次が出ないとなれば、入金はされないのが原則です。
(実売数が正確には読めないため、次タイトルの売上をある種の担保にして、売上(見込み)を取次は出版社に支払います。
出版元が倒産したら書籍はどうなる?
ところで出版社が倒産してしまった場合、その出版社から出版されていた書籍の行方、権利関係はどのようになるのでしょうか。
日本書籍出版協会によると、例えば出版社Aが倒産し、その業務を出版社Bが継いでいた場合は、書籍の「著作者と出版社Aで交わされた契約」がそのまま出版社Bとの契約に引き継がれることになります。
ということでそのまま出版され続けることが多いようです。
これに当てはまるのが2015年の倒産により一番大きな負債を負っていた「美術出版社」で負債額は19億5600万円。
発行されていた「美術手帖」は無事新設法人に引き継がれたそうで、今後も発行されていくようです。
こうして引き継いでいける雑誌や書籍は良いですが、倒産によって休刊になってしまった雑誌(例えばパッチワーク通信社が発行していた「パッチワーク通信」など)は残念ながらなかなか復活の機はきそうにありません。事実上の廃刊というわけです。その場合はどうなるのでしょうか?
業務を引き継ぐ会社が無くなった場合は「著作者と出版社Aとの契約」自体が解消されたことになりますので、例えば全くこれまでかかわりのなかった他者が出版したいと考えた場合、(原稿については)著作者のみの許諾が得られれば他の出版社から再販することが可能です。
今後の市況
東京商工リサーチによれば、今後も出版業の倒産は増加する恐れがあるとの見方をされています。
そもそも出版物の販売額は10年以上に渡り減少をたどっており、それは販売店(書店)に直に影響を与えている部分でもあります。
出版不況という言葉が生まれている中で、書店の倒産も少なくありません。
書籍・雑誌は時代を作ってきた、重要なツールです。その重要なツールは紙媒体から電子へと形を変え、電子書籍というその文化さえも今まさに作り上げようとしています。
ここでは販売店(書店)の倒産は一度置いておくとして、出版業界のみを見れば紙媒体から電子媒体へ移行するからといって不況になるとは思えません。
しかし従来通りの経営努力だけではこの出版不況を生き抜くことは厳しいでしょう。