ここでは出版における部数のお話と、業界全体での部数推移のお話、一緒に使われることのある実売部数についてまでを説明します。
目次
出版部数とは?
一般に出版部数とは、印刷し発行した書籍の冊数を言います。
出版部数とは曖昧な言葉で、実際に読者に届いた部数と同義ではない場合が多いです。
印刷した部数を「発行部数」と呼び、
そのうち取次・書店に流通する部数があり(流通部数などとはあまり呼ばれない)、
書店に届くも、陳列されない残念な書籍も僅かながらあり、
実際に誰かが購入した部数を「実売部数・販売部数」等と呼びます。
実売部数とは?
前述の「実売部数」とは、書店や通販で実際に売れた書籍の冊数を言います。
1人が2冊を購入した場合、実売部数は2部になります。
日本では、全国の書店全てにPOSレジが導入されている状況ではないため、精緻な実売部数を計測することは出来ません。ですから、出版業界で「実売部数」と呼ばれる数値は、POSレジ等で正確に計測された販売部数と、返本数から計算した「売れたであろう総定数」の合算値を指します。
半年、1年の期間で見た場合、概ね正しい数値に収まることからここでの部数を実売部数として利用することが多いです。
初版部数とは?
初版部数とは、初回に印刷した書籍の冊数を言います。
初版は小説でも単行本、文庫本で大きく変わってきますし、ビジネス書でもテーマにより上下があります。
出版部数の推移
本の出版部数は増えているのでしょうか?それとも・・・?と、いうわけで出版部数の推移という観点で調べてみました。
ただ、部数というのはかなり「幅」のある数値だということを冒頭にお断りしておきます。実際「部数」と言ってもそれが「売れた部数」の「実売部数・売上部数」なのか、「発行した部数」の「発行部数」なのか、でも大きく変わってきます。
本が5000部存在しているとします。もし一冊も売れなければ、「売上部数」としては0部です。しかし「発行部数」は5000部となります。これは大きな違いですよね?また正確な売上部数は出版社では社外秘と同等の数字です。またどこかの第三者である外部機関がそれらを取りまとめて管理していることもありません。(オリコンのようなランキングも、一部店舗での数値をベースに推測したものです。)
出版部数を検証する際は、販売金額や売上部数、あるいは返品率などを総合的に俯瞰して「売上部数」に近い部数で検証するのがもっとも偏らない数字を出せると思われます。
ですので、このリポートは販売金額から割り出した売上部数をもとに振り返っていきます。
書籍
書籍について、私たちが目にするニュースは「関西芸人さんの芥川受賞作品が200万部を突破」とか「イギリスの有名作家シリーズがメガヒット」とか、どちらかというと「良い」部分のそれが多いです。ある意味当たり前ですよね。広告を出す側は「これだけ売れている人気の本ですよ?アナタも読まないと取り残されますよ!」と謡う必要があります。
ですが、それはほんの一部です。実は書籍の部数は1996年をピークに年々減少し続けていると言われています。
もちろん、メガヒット作品の有無によって年間発行部数が大きく変動する傾向はあります。書籍の発行部数が一部のベストセラーに集中する動きは、おそらく今までもこれからも変わらないでしょう。
その中で、それでも年々減少傾向が続いているということは、やはり書籍出版の力が落ちていると言わざるをえません。その一方で自己啓発書や生き方本、あるいは生活実用書やノウハウ本、そして児童書などは毎年手堅く発刊はされています。
それでは「部数の推移」を、数字で確認してみましょう。書籍の部数は1988年の約9億4300万部がピークで、その後2015年には約6億2600万部まで減少しています。
この間の動きを振り返ってみます。70年代を見ると、前半の4億7000万部から70年代終了時には7億6400万部と62%強も伸びました。その後80年に入って伸び率は鈍化しましたが、7億6300万部から9億1100万部とまだ19%の伸びを維持していて、10億部まであと一歩までのところまでになっていました。そして90年代になってとうとう潮目が変わることになります。前半の1995年までは9億0500万部~9億1500万部の間で一進一退でしたが、1997年以降は徐々にマイナスが続きそれが現在まで至っています。
2015年にはとうとう70年代終盤の7億部レベルまで落ち込んでしまいました。そして2015年から2016年の実績も対前年比▲2.8%となって上記の数値となっています。今の状態でこの数字が上昇する可能性はまだ見えていません。
もう一つの指標である成長率という数字で確認すると、出版全体の成長率は80年代の10年間で40.4%、90年代の10年間は5.1%、そして98年からは対前年比マイナスに突入して以降長期低迷状態です。部数と成長率が見事に符号していますね。
雑誌
出版不況と言われて久しいですが、その元となるのが雑誌でしょう。雑誌の新しい創刊は大幅に減少し、現在では創刊による活性化で市場を回復させようという機運すら感じられなくなっているのが実情です。雑誌の発刊は18年連続で減少して、多品種少生産で何とか生き延びようとしていますが、それでも減少傾向に歯止めをかけるほどにはなっていません。
雑誌の大きな趨勢としては、1960年~1975年の15年間は、雑誌最盛期で15年連続で二桁成長を遂げました。ピークは1976年。雑誌の売上が書籍の売上を追い越し「雑高書低」となって雑誌が出版産業成長の大きな牽引役を果たしました。その後1976年~1996年の20年間に一桁成長になり、1998年~2018年は一転マイナス成長となっており、一言でいえばこの数十年はずっと「右肩下がり」ということです。これは書籍の統計推移とほぼ同じです。
月刊誌
月刊誌は週刊誌ともに1997年をピークに19年連続の低下傾向です。発行部数は発行点数に左右される部分もあります。その発行点数を見ると「休刊点数」が「創刊点数」を上回っている状態が10年連続で続いています。容易に想像できるように、若者ターゲットの月間誌は非常に厳しい状態で、今まで月刊誌発刊を支えていた中高年向けの月刊誌も伸び悩んでいます。
週刊誌
インターネットやスマートフォンの普及は目を見張るものがあります。ひと昔前まで「週刊誌を読む場所」の定番であった電車の中や、喫茶店は、今やほとんどの人が携帯を見つめているか、タブレットを見つめている状態です。
インターネット情報は、ニュースが即時に入手できます。今まで新聞の次に速報性を重視していた週刊誌はその枠割とニーズを完全に失い、ポジションが非常に曖昧になってきています。総合週刊誌がスキャンダルの発信で大きな反響を呼び、一時は好調なときもありましたが、それでも全体から見れば発行部数は漸減傾向にあるといえます。
コミック
コミックの発行部数はコミックスとコミック誌全体で15年連続でマイナス傾向となっています。またコミック誌だけに限ると21年連続で減少。ここ直近では2年連続で1割以上の減少となっています。ただ、電子コミックは3割近い伸びを示していて、紙と電子=リアルとネットを合わせた市場という意味ではコミックは最大規模になっています。今後は出版の部数にどうやって電子出版のボリュームを加えていくのか?というのは大きな課題と言えるでしょう。
ムック
ムックとはマガジン(MAGAZINE)と書籍(BOOK)の性格を合わせもつものを言います。よく別冊特別号や臨時増刊号などでCD-ROMを雑誌の付録として入っていたりしているものがその代表です。雑誌は基本的には返品期限があります。それは旬の話題や旬のニュースを発信しているからですが、ムックにはその返品期限がありません。ので、一時はこのムックがムーブメントとなって出版産業の一部を支えるところがありました。そのムックも1997年をピークに減少基調です。2006年に大きく落ち込み、その後2011年以降6年連続で減少。増加傾向にあった発刊点数は3年連続で減少しています。
文庫本
90年代後半以降、書籍全体の発行部数が逓減する中で、当然のように文庫本も低落傾向にあります。消費増税があった2014年に店頭の文庫本の販売状況が急激に悪化し、それを受けて発行部数も急激に減少しました。一部の人気作家の作品に発刊は集中しているのが現状で全体の発刊の落ち込みは危機的な状況ともいえます。
最後に
出版産業は、一般的には「不況に強い産業」だと言われています。「本」という商品は人間の知的欲求を満たす、人間の根源と関連するものですし、本を読んで勉強、学習する行為や、自分を高めようとする行為は、その時代時代の景気とは関係しないからだと言われていたからです。
しかし、どの産業も外部環境に影響を受けないはずがありません。
本が売れない要因は「不況」だけではないでしょう。むしろ不況という要素はそれほどの影響力はなくて、その他の複合的な要素で本が売れないと言ったほうがよいでしょう。
そもそも本を読む動機付けが一番高い青少年の数が減っていること。そして新古書店や漫画喫茶という安価で書店以外で本を読める環境の広がり、そして図書館の貸し出し数の増加などがあります。
そしてもっとも大きな理由。それは誰もが想像できるでしょう。それはライフスタイルの変化です。20年前には650万部を誇っていた週刊マンガ冊子は、毎年のように10%を超える対前年減を繰り返して今や200万部を切りました。100万部を割り込むのも時間の問題でしょう。
私たちの暮らし、私たちのライフスタイルが大きく変わった今、出版の世界もただ単に部数という物差しですべてを語るのではなく、今後はその内容や種類、媒体、経路、そして読む場面や、読む時間によってそのカウントは違ってくるのかもしれません。