夢の印税生活!出版と印税の話

「夢の印税生活」とは昔から言われているフレーズです。それは「何もしなくてもお金が入ってくる」というイメージ。そもそも印税とはどんな仕組みになっていて、どういうものなのでしょうか?

出版の世界の印税は音楽業界と共に多くの方が一番に思い浮かべるものでしょう。「有名作家や有名著者は印税で悠々自適の生活をしている」。そんなイメージでしょうか。
ここでは、出版での印税はどういう仕組みなのか?印税とは?という基本的な情報をご紹介しましょう。

印税の計算式

印税の計算はそれほど難しいものではありません。誰でも計算できる非常にシンプルなものです。それは以下の式で求められます。
【印税=『本の価格』×『部数』×『印税率』】
これだけです。例としてここに実際の数字を入れてみましょう。ここでは計算し易いように以下の数字を仮に設定してみます。
本の価格=¥1,000
本の部数=100,000部
印税率=10%
これを上記式に代入します。すると印税額は
1,000×100,000×0.1 で
¥10,000,000。つまり1千万円です。

この式を知っていればおおよその有名著者の印税額は推定できます。因みにあの芥川賞を受賞した大ヒット作品は約200万部といわれています。仮に印税率を10%として計算すると、この大ヒット作品の印税額は約2億円ということになります。

印税率はどれぐらい?

上記の計算式で一つよく解らない数字があったかと思います。
本の価格は本に書いてあるのでわかります。部数(冊数)もわかりやすいでしょう。(実際は、刷り部数・実売部数という分類があります。こちらは後述します。)

では、この「印税率」とはなんでしょうか?
「印税」というぐらいですから、所得税や市民税のように法律で税率が決まっているのでしょうか?
答えから先に言いますと、印税は税金の一種ではありません。どこのどの役所に行っても「印税率は○%です」と答えてはくれません。

印税とは例えると一種の「歩合給」のようなものです。売れたら売れた分だけ貰えるお金。つまりタクシードライバーさんの歩合給や、セールスマンの歩合給と性質的には似ています。

この印税率は、出版社と著者との間で取り決める「率」です。これだけの部数の場合はこれだけのパーセントでいきましょう!という二者間合意の数字です。
一般的にはこの印税率は5%~15%が相場です。ただ、あくまでも二者間の取り決め数字ですから、この範囲を超えた率の場合もあります。

少々乱暴ですが、率を考える上での目安を記載してみようと思います。
・実績なし、著者知名度低
3~5%

・知名度または一定冊数での売り上げ実績あり
5~10%

・超著名人、ベストセラー作家
10~15%

ここでの注意点は、書籍の内容と著者の経歴です。
過去に成功した書籍ジャンルと同一ジャンルであれば、十分に評価されるでしょう。
著者の専門性や実績と無関係なジャンルでの書籍の場合、ケースバイケースで判断が分かれるでしょう。

権利者が複数の場合

出版には複数の権利者が存在する場合があります。「原作者」と「翻訳者」であったり、「原作者」と「ブックライター」が一冊の書籍を作り出す場合です。
このような場合、契約段階でそれぞれに対し印税率を定めるケースもあれば、原作者と出版社間で印税率を定め、原作者とブックライター間で別途分配率を決めるケースもあります。
※インタビュー形式で語った内容を、ブックライターが原稿にする場合などでは、原稿作成料を発売前に支払うケースもあり、より複雑です。

「刷り部数」と「実売部数」

先の計算式で「部数」とありましたが、この「部数」はどういう数え方にするのか?を、出版社と著者との間で予め決める必要があります。
この部数の数え方には2つの方法があります。ここでは2つの部数のカウント方法をご説明しましょう。

実売部数(契約)

これは文字通り「どれだけ売れたか?」「売れた本の数を数える」方法です。出版社は売れた分から一定の印税率を著者に支払えばいいので、リスクが低い契約方式です。
極端な例ですが一冊も売れなければ印税額は0円となります。本の価格がどれだけ高くても、印税率がどれだけ高くても、間に「0」を掛けますから、その式の結果は0円です。
最近は実売部数での契約が増えています。市場全体が伸び悩んでいることやプロモーションを考えた場合に自由度が増すことが背景にあるでしょう。
※刷り部数での契約だと、許容できる返本率を厳しく設定するため、思い切った配本希望(部決)がなされづらくなります。

仮に先の例で、本の価格は¥1,000。発行部数は初版で5,000部。印税率が10%。の場合でも実売部数が0冊であれば、1,000×0×0.1=0。著者が受け取る印税額は0円となります。

刷り部数(契約)

これは売れた冊数ではなくて、発行した本の冊数(=発行部数・刷り部数)を部数として印税を支払う方法です。発行部数ですから、仮に5,000冊最初に刷った場合1冊も売れなかったとしても、印税は発生し、著者に支払うことになります。
言い換えると著者は本がどれだけ売れたかは関係なく、本が刷られた時点で印税を受け取ることができます。
本の価格と印税率が同じだとして先の例をこの部数カウントで計算すると、1,000×5,000×0.1=500,000。著者が受け取る印税額は50万円となります。

二つの部数の計算方法で上下50万円をも差が発生しました。これだけ大きな印税額の差が出てきますので、「部数をどう取り決めるか?」は、印税額にとっては印税率同様に非常に大きな要素となります。

すでにお気づきのように、「実売方式」は出版社側に有利ですし、「刷り部数方式」は著者側に有利なカウント方法となります。

出版不況と言われて久しい現在ではやはり「実売方式」が一般的です。ただ、この“両者の間”をとる方法もあります。初版保証とか保証印税契約というものです。これは5,000部刷るとしたら最初の2,500部は「刷り部数方式」でカウントして、残りの2,500部からは「実売方式」でカウントしましょう・・・。両者のリスクをお互いにヘッジしながら歩みよりましょう。という考え方です。ある意味人間の知恵が働いた合理的な決め方かもしれません。

まとめ

他の業態、業界がそうであるように、出版の世界も日々変化しています。電子書籍の存在がその際たるものでしょう。ですので、今回ご紹介した「印税率」というものも今後変化していくでしょう。

適正な印税は創作文化にとってまだまだ有用であると思います。「印税生活」という、夢を感じさせる言葉が無くならない、出版を目指す人が絶えないような、出版業界でなければと思います。